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名古屋地方裁判所岡崎支部 昭和47年(わ)394号 判決

主文

被告人を懲役一〇年に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、中学校卒業後、工員、店員などをしてからは罪を重ね、刑務所生活をくりかえし、昭和四七年一月神戸刑務所を出所した後、愛知県知立市の実弟の家に身を寄せて徒食していたものであるが、

第一  昭和四七年九月二六日午後一〇時二五分ころ、知立市堀切一丁目地内、飲食店「ゆきちやん」こと松田幸子方において飲酒中、かねて顔見知りの伊藤政勝(当時三六歳)と杯を交わしているうち、同人に対して「奥さんを叩いたりしてはいかんよ」と注意したところ同人がこれにからんできて口論となり、同店付近路上において同人と組打ちの喧嘩をはじめその際同人よりその場に蹴り倒されるや、激昂のあまり同人を殺害しようと企て、所携の刃渡り約11.2センチメートルのあいくち(昭和四七年押第八三号の一)で同人の胸部を二回突き刺し、よつて即時同所において心臓刺切による失血多量により死亡させ、

第二  (一)昭和三八年四月二五日岡崎簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年に、(二)昭和四〇年一二月一〇日大阪簡易裁判所において同罪により懲役一年に、(三)昭和四二年一〇月一九日大阪地方裁判所において常習累犯窃盗罪により懲役二年にそれぞれ処せられ、そのころいずれもその刑の執行を受け終つたものであるが、更に常習として、昭和四七年二月七日ころから同年九月二三日ころまでの間、前後四〇回にわたり、別紙犯罪事実一覧表37ないし76記載のとおり(同表74の事実については三輪繁信と共謀のうえ)愛知県尾西市東五城字寺廓一五番地の一東荘アパート内伊藤光正方ほか三九ケ所において同人ほか四四名所有にかかる現金合計約五五三、六九二円および指輪七個ほか一四九点(時価合計約二五〇、八〇〇円相当)を窃取し、

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和四二年一〇月一九日大阪地方裁判所で常習累犯窃盗罪により懲役二年に処せられ、昭和四四年九月二三日右刑の執行を受け終わり、(2)その後犯した窃盗罪により昭和四五年一一月二日加古川簡易裁判所で懲役一年二月に処せられ、昭和四七年一月三〇日右刑の執行を受け終つたもので、右各事実は被告人の当公判廷における供述および前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法一九九条に、判示第二の所為は盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条(刑法二三五条、一覧表74の事実についてはさらに同法六〇条)にそれぞれ該当するので、判示第一の罪につき所定刑中有期懲役刑を選択するところ、前示の前科があるので判示各罪につき同法五九条、五六条一項、五七条により、いずれも同法一四条の制限内で三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇年に処することとし、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち三〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(常習累犯窃盗の訴因に対する判断)

被告人は、常習として昭和四五年三月中旬より昭和四七年九月二三日ごろにわたり、別紙犯罪事実一覧表の1ないし76記載のとおり、窃盗罪を犯したとして起訴されたものであるが、被告人はまた右一覧表の36と37の各事実の中間である昭和四五年九月二二日加古川市の加古川中学校工事現場ほか二か所において被覆電線を窃取した事実により、同年一一月二日加古川簡易裁判所において窃盗罪として懲役一年二月の判決言渡をうけ、右判決は同月一七日確定したことが前科調書および右判決の謄本により明らかである。そして右加古川市における各犯行の態様と判示第二掲記の(一)ないし(三)の各前科、受刑の事実を綜合すれば、右加古川市における各窃盗も盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条所定の常習累犯窃盗に該当するものとみるべきであり、本件起訴にかかる常習累犯窃盗の一部である前記一覧表1ないし36の事実と共に一個の常習累犯窃盗罪を構成すべきものと認められ、従つて右常習累犯窃盗の一部につき確定判決が存在することになるから、右確定判決以前の所為として起訴された同表の1ないし36の各事実については刑事訴訟法三三七条一号により免訴とすべきであるが、これらの事実は判示第二の常習累犯窃盗の一部をなすものとして起訴されたものと認められるから、主文において特に免訴の言渡をしない。

よつて主文のとおり判決する。

(小森武介 生田瑞穂 島内乗統)

犯罪事実一覧表〈省略〉

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